Manuel M. Ponceのピアノ曲リスト
斜字は出版がなく、かつ手稿譜も現存せず、どんな曲だか不明な作品です。
1891 (または1888?)
1895
1899
- Tempo di minuetto メヌエットのテンポで
- Estudio de concierto no. 6 "Alma en primavera" 演奏会用練習曲第6番、春の心
- Misterio doloroso 悲しい神秘
1900年頃
1900
- 2º Minuetto メヌエット第2番
- 3er Minuetto メヌエット第3番
- Tres romanzas sin palabras 3つのロマンティックな無言歌
- Noche azul 青い夜
- Ideal 空想
- Noche de estío 夏の夜
- Melodía メロディー
- Malgré tout (A pesar de todo) それでもやはり
- Mazurka de salón en mi mayor サロン風マズルカホ長調
- Mazurka de salón en fa mayor サロン風マズルカヘ長調
- Mazurka de salón en sol mayor サロン風マズルカト長調
1901
1901年頃
- Estudio de concierto no. 1 "Preludio trágico" 演奏会用練習曲第1番、悲劇的な前奏曲
- Mazurka no. 1 en fa menor マズルカ第1番へ短調
- Mazurka no. 2 en do sostenido menor マズルカ第2番嬰ハ短調
- Mazurka no. 3 en fa menor マズルカ第3番へ短調
- Mazurka no. 4 en fa sostenido menor マズルカ第4番嬰へ短調
1902年頃
1903
- Estudio de concierto no. 3 "Hacia la cima" 演奏会用練習曲第3番、頂上に向かって
- Hojas de álbum アルバムの一葉
- Mayo 5月
- Mazurka no. 5 en do sostenido menor マズルカ第5番嬰ハ短調
- Once miniaturas 11のミニアチュール
- Bersagliera ベルサグリエリ
1905
- Estudio de concierto no. 5 "La hilandera de la abuelita" 演奏会用練習曲第5番、おばあちゃんの糸紡むぎ
- Tiempo de schottisch ショッティッシュのテンポで
- Tres preludios 3つの前奏曲
- Historia de un alma, Parte I. Preámbulo (La noche) ある魂の物語、第一部 序曲(夜)
- Bocetos nocturnos 夜のスケッチ集
- Duerme... 眠り・・・
- Valse melancólico 憂うつなワルツ
- Visión sideral 霊視
- Legende 伝説
1905-1908年頃
1906
- Vier kleine Fugen für den Anfänger (Cuatro pequeñas fugas para los principiantes) 初心者のための四つの小さなフーガ
- Preludio y fuga sobre un tema de Haendel ヘンデルの主題による前奏曲とフーガ
- Estudio de Moscheles モシェレスの練習曲
- En una desolación (El riego) 悲しみの中に(エル・リエゴ)
- Notturno (No. 1) 夜想曲(第1番)
- Nocturno II 夜想曲第2番
1907
- Estudio de concierto no. 7 "Juventud" 演奏会用練習曲第7番、青春
- Estudio de concierto no. 8 "Preludio galante" 演奏会用練習曲第8番、優しい前奏曲
- 2ème Caprice カプリーチョ第2番
- Página de álbum アルバムの頁
1909
- Primer amor 初恋
- Arrulladora mexicana (La rancherita) メキシコの子守歌(ラ・ランチェリータ)
- Scherzino mexicano メキシコ風スケルツィーノ
- Vespertina 夕方
1903-1910年頃
- Amorosamente, Vals lento 愛をこめて、ゆっくりとしたワルツ
- Apasionadamente, Vals lento 情熱的に、ゆっくりとしたワルツ
- Mazurka no. 6 en re menor マズルカ第6番ニ短調
- Mazurka no. 7 en fa sostenido menor マズルカ第7番嬰へ短調
- Mazurka no. 8 en do sostenido menor マズルカ第8番嬰ハ短調
- Mazurka no. 9 en sol menor マズルカ第9番ト短調
- Mazurka no. 10 en do sostenido menor マズルカ第10番嬰ハ短調
- Mazurka no. 11 en la menor マズルカ第11番イ短調
- Mazurka no. 12 en si menor マズルカ第12番ロ短調
- Mazurka no. 13 en fa menor マズルカ第13番へ短調
- Mazurka no. 14 en re bemol mayor マズルカ第14番変ニ長調
- Mazurka no. 15 en do menor マズルカ第15番ハ短調
- Variaciones sobre un tema popular religioso 宗教歌の主題による変奏曲
1907?-1911
- Trozos románticos ロマンティックな小品集
- Barcaroletta 小さな舟歌
- Cuando viene la primavera 春の訪れ
- Souvenir 想い出
- Malinconia マリンコニア
- Quimera 幻想
- Su primer mirada 初めてのあなたの眼差し
- Berceuse 子守歌
- A toi 君へ
- Deseo 願い
- Hoja de álbum アルバムの一葉
- Petit prèlude 小さな前奏曲
- Jeunesse 思春期
- Página de álbum アルバムのページ
- Scherzino スケルツィーノ
1910
1911
1912
- Estudio de concierto no. 10 "Jarabe" 演奏会用練習曲第10番、ハラベ
- Album de amor 愛のアルバム
- Diálogo de amor 愛の会話
- Cerca de tus ojos... 君の目の前で・・・
- Momento de amor 愛のひととき
- Tus ojos tienen la dulzura de los crepúsculos... 君の目は黄昏のように甘い・・・
- En la paz del sendero florido... 花咲く小道で・・・
- Tú eres mi amargura y mi dolor... 君を思うと僕は辛く苦しい・・・
- Eternamente... 永遠に・・・
- Intermezzo no. 1 間奏曲第1番
- Tema mexicano variado メキシコの主題による変奏曲
- Scherzino (A monsieur Claude Debussy) スケルツィーノ(クロード・ドビュッシー氏へ捧げる)
- Serenata mexicana "Alevántate" メキシコのセレナーデ「起きてよ」
- Primera sonata ソナタ第1番
- La vida tumultuosa 混乱した人生
- Reposo de amor 愛の安らぎ
- En el esplendor de la alegría 喜びの絶頂の中に
1913
- Cántico a la memoria de un artista ある芸術家を讃える歌
- Estudio de concierto no. 12 (Tempo di valse) "La vida sonríe..." 演奏会用練習曲第12番(ワルツのテンポで)、微笑み
- Preludio mexicano (Cielito lindo) メキシコの前奏曲(シエリト・リンド)
- IIª Rapsodia mexicana メキシコ狂詩曲第2番
- Serenata frívola くだらないセレナーデ
1914
- Romanza de amor 愛のロマンセ
- Minuetto (en mi mayor) メヌエットホ長調
- Balada mexicana バラーダ・メヒカーナ
- Ven, ¡Oh luna! 出てきて、月よ!
- Canciones mexicanas XI "Cuiden su vida" メキシコ歌曲集第11番「お大事に」
- Canciones mexicanas XII "Valentina" メキシコ歌曲集第12番「バレンティーナ」
1915
- Barcarola mexicana "Xochimilco" メキシコの舟歌「ソチミルコ」
- Elegía de la ausencia アウセンシアのエレジー
- Rapsodia cubana no. 1 キューバ狂詩曲第1番
- Rapsodia cubana no. 2 キューバ狂詩曲第2番
- Suite cubana キューバ組曲
- Serenata marina 海辺のセレナーデ
- Plenilunio 満月
- Paz de ocaso (En el río Damují) 日暮れの安らぎ(ダムヒ川にて)
1916
- Momento doloroso 悲しい時
- Dos danzas 2つの舞曲
- Mexicana, Danza romántica メキシコ風、ロマンティックな舞曲
- Cubana, Danza de salón キューバ風、サロン風舞曲
- Guateque, Tempo di danzon グアテケ、ダンソンのテンポで
- Habana (Evocaciones), Allegro moderato ハバナ(想起)、アレグロ・モデラート
- Preludio cubano キューバ前奏曲
- Sonata No. 2 ソナタ第2番
- Allegro
- Allegro. Scherzo
- Rapsodia cubana no. 3 キューバ狂詩曲第3番
- Rapsodia yucateca ユカテカ狂詩曲
1917
- Mazurka no. 18 (27) en mi menor マズルカ第18 (27) 番ホ短調
- Valse Galante 優しいワルツ
- Serenata arcaica (Petite serenade) 古風なセレナーデ(小さなセレナーデ)
1917年頃
1919
1920
1921
- Evocaciones 想起
- La Alhambra アルハンブラ
- Venecia ベネチア
- Versailles ベルサイユ
- Broadway ブロードウェイ
- Intermezzo no. 3 (Alma triste) 間奏曲第3番(悲しい心)
1920年代前半
1927
1928
1929
- Quatre pièces pour piano (Suite bitonal) ピアノのための4つの小品集(複調の組曲)
- Preludio scherzoso スケルツィオ風前奏曲
- Arietta アリエッタ
- Sarabande サラバンド
- Gigue ジーグ
1930
- Deux etudes pour piano ピアノのための2つの練習曲集
- Allegro mosso ma espressivo
- Allegro non troppo
1931
1932
- Sonatine ソナチネ
- Allegretto semplice
- Andante, Alla maniera d'un notturno
- Allegro
1933
1934
1935
1937年頃
- Danza de la Pascola sobre temas indígenas 先住民の主題によるパスコーラの踊り
- Mañanitas de los niños 子どもたちのマニャニータス
- Mazurka マズルカ
- Preludio en Do mayor 前奏曲ハ長調
1939
- Idilio mexicano, para dos pianos 2台のピアノのためのメキシコの牧歌
- Veinte piezas fáciles 20のやさしい小品集
- Canción de los tamales (Huicholes) タマーレスの歌(ウイチョル族)
- Danza yaqui ヤキの踊り
- Los xtoles (Canto Maya) チトーレス(マヤの歌)
- Danza de la lluvia (Huicholes) 雨乞いの踊り(ウイチョル族)
- Canción de la lluvia (Huicholes) 雨乞いの歌(ウイチョル族)
- Danza de los tecuanes テクアネスの踊り
- Canción campesina (Mestiza) 農民の歌(メスティーソ)
- Cielito lindo シエリト・リンド
- Las mañanitas ラス・ マニャニータス
- Yo no sé que decir (Danza popular 1880) 何て言ったらいいか分からない(1880年の民族舞踊)
- La pasadita (Canción Mexicana 1846) パサディータ(1846年のメキシコの歌)
- La Sandunga (Melodia de Tehuantepec) サンドゥンガ(テワンテペクの旋律)
- Ven, ¡Oh Luna! (Canción del Bajío) 出てきて、月よ!(バヒオの民謡)
- Homenaje a Villanueva (Sobre su 3a Mazurka) ビジャヌエバを讃えて(彼のマズルカ第3番による)
- Arrullo popular 子守歌
- La posada ポサーダ
- La revolución 革命
- La cucaracha (Canto popular) ラ・クカラーチャ(有名な歌)
- Primavera (Original) 春(オリジナル)
- La Patria 祖国
1940または1943?
1941
- Cuatro danzas mexicanas 4つのメキシコ舞曲集
- Vivo - Meno mosso, espressivo
- Vivo - Piú lento
- Vivo - Meno mosso
- Vivo - Poco meno
1943
- Jesusita (Vals lento) ヘスシータ(ゆっくりとしたワルツ)
1948
作曲年不詳
Manuel M. Ponceのピアノ曲の解説
1891 (または1888?)
- Danza del sarampión はしかの踊り
ポンセ8歳または9歳の時の作品で、現存する彼の一番最初の作品 (5歳の時に作曲したとする説もある)。幼少の彼がはしかに罹ったあと作曲したと言われている。イ短調、三部形式の短い曲で、右手・左手とも一声ずつながら、はしかが小悪魔のように踊っているような愛嬌ある曲。旋律と対旋律の動きがなるべく並行を避けて斜行または反行としている点は、8歳または9歳の子どもにしてはなかなかである。中間部はハ長調になる。1895
- Preludio (en do menor) 前奏曲(ハ短調)
曲調はショパンの夜想曲作品27-1あたりを思わせる暗い雰囲気の曲。ハ短調、A-B-A'形式。ハ短調の空虚五度(ド、ソ)で始まるアルペジオ伴奏にのって翳りを帯びた旋律が奏され、8小節毎に繰り返しながらハ短調→変イ短調→ホ短調と目まぐるしく転調していき、12歳の時の作品とは思えぬほど大人びた響きだ。Bはホ長調で、後年のポンセの作品でよく現れる、旋律に半音階的経過音を多用して甘い響きを醸し出す手法が見られる。1899
- Tempo di minuetto メヌエットのテンポで
変ニ長調、A-B-A-C-A形式。上品で静かな小品。Bは変イ長調で、左手伴奏が右手を飛び越えて高音部にも現れる。Cは変ト長調になる。- Estudio de concierto no. 6 "Alma en primavera" 演奏会用練習曲第6番、春の心
元々は《Capricho-estudio》という題名で作曲されたが、後年《Estudio de concierto no. 6》とされた(そのため演奏会用練習曲第1、3、5番より以前の作曲である)。イ長調。春が来たような浮き立つ気分の曲。右手→左手で16分音符の下降音型が執拗に続くのは、ショパンの《エチュード、作品25の3》にちょっと似ている。- Misterio doloroso 悲しい神秘
ト短調、僅か8小節が繰り返されるだけのA-A形式。分散和音の伴奏にのって悲し気な旋律が重音で奏される。1900年頃
- Canto maya マヤ族の歌
ロ短調。1分程の短い曲。古典的な和音の曲で、あまり題名とは結びつかないような気がする。- Súplica 懇願
未完成の小品で、ポンセの弟子のカルロス・バスケス Carlos Vázquez が補筆している。ホ長調の静かな曲で、夢想するような旋律がロマンティックで美しい。1900
- 2º Minuetto メヌエット第2番
メヌエット第1番は失われてしまっている。この曲はホ長調、A-B-A-C-A形式。スタッカートが溌剌としたメヌエット。Bはイ短調、Cはロ長調になる。- 3er Minuetto メヌエット第3番
ヘ長調、A-B-A-C-A形式。両手ともオクターブの多い、やや勇ましい曲。Bはイ短調、Cはニ短調になる。- Tres romanzas sin palabras 3つのロマンティックな無言歌
この組曲は3つのロマンティックな無言歌として作曲されたが、3曲目のNoche de estíoは失われてしまっており、Noche azulとIdealのみ現存。第1番Noche azulは変イ長調、A-B-A形式。ノクターン風の静かな曲。Bはホ長調の重音トリルが鳴る。第2番Idealはホ長調、A-B-A'形式。思索的な感じの曲。A'は左手トリルにのって、右手旋律が静かに奏される。
- Noche azul 青い夜
- Ideal 空想
- Noche de estío 夏の夜
- Melodía メロディー
ニ長調、A-B-A-B形式。前半Aはコラール風の和声がしっとりとした感じ。後半Bははポンセらしい抒情的な旋律が奏される。- Malgré tout (A pesar de todo) それでもやはり
嬰ヘ短調、A-A-B-B-A形式。楽譜の冒頭には「左手だけで弾く Mano izquierda sola」と記されている通り、左手でゆったりとハバネラの伴奏を弾きつつ中音部の旋律も奏していく。ハバネラのリズムで書かれた美しくも悲しく、切ない曲。中間部Bはニ長調になるが、そこも哀愁を帯びている。この曲は、ポンセが子ども時代をを過ごしたアグアスカリエンテスの同郷出身の彫刻家ヘスス・F・コントレーラス Jesús F. Contreras (1866-1902) に捧げられた。コントレーラスは当時の優れた彫刻家だったが、1898年、右腕の悪性腫瘍(骨肉腫か?)のため(または交通事故のためという説もあり)右腕切断手術を受けた。それにもかかわらず彫刻を続け、1900 (1898?) 年に代表作の大理石彫刻《Malgré tout》を作り、その2年後に36歳の若さで他界した(《Malgré tout》が右腕切断後に彫刻されたかの真偽ははっきりしないが)。Malgré toutとはフランス語で「それでもやはり」とか「いずれにせよ」、「是が非でも」と辞書に載っており、この彫刻は1900年のパリ万国博覧会に出品されたためフランス語の題名になったのだろう。Malgré toutという題名も謎めいているが、その上この彫刻自体かなり衝撃的です(裸の女性が後手に縛られ足枷されて横たわっている)。- Mazurka de salón en mi mayor サロン風マズルカホ長調
この2曲の《サロン風マズルカ》は後年作曲されるマズルカとはやや異なり長調で、表現もおとなしく上品な、題名通り「サロン」風のマズルカである。ホ長調、A-B-A-C-A形式。ちょっと気取った旋律で、和声的にはまだ単純。Aは上下に舞うような旋律が現れる。Bは嬰ハ短調、Cはイ長調になる。
- Mazurka de salón en fa mayor サロン風マズルカヘ長調
ヘ長調、A-B-C-A形式。鍵盤を上下するような旋律がやや華やかな作品である。Cは変ロ長調になる。- Mazurka de salón en sol mayor サロン風マズルカト長調
ピアニストのArturo Nieto-Dorantesが録音したCDによると、サロン風マズルカ第6番になるとのこと。ト長調、A-B-A形式。Aは中音部オクターブの落ち着いた旋律。Bはホ短調になる。1901
- Gavota ガボット
変ニ長調、A-A-B-A-C-A形式。上品で心暖まるような美しい曲で、初期のポンセの代表作。ポンセがこの後に好んで用いるII度やVI度へ行く時の旋律経過音の半音階進行や、II度→II度の減5短7の和音(=この曲だとミ♭-ソ♭-ラ-レ♭)→V度の和音進行などが登場 (下記の楽譜の2段目)。シンプルながら絶妙な対旋律もいい感じ。ポンセ節とも言っていいような彼の個性がこの曲で出来上がっている。Bは変ロ短調、Cは変ト長調になる。この曲は後に管弦楽曲にも編曲された。
Gavota、11-17小節、Peermusicより引用- 8ª Mazurka de salón サロン風マズルカ第8番
1909年頃作曲の《マズルカ第8番嬰ハ短調》とは全く別の曲。ヘ短調、A-A-B-B-C-A形式。Aは楽譜にf con fuocoと記された稲妻のような下行アルペジオと、pで奏されるマズルカのリズムの対比が感情の起伏を表しているよう。Bはff appassionatoで始まる旋律がまた劇的。Cは変ニ長調になる。1901年頃
- Estudio de concierto no. 1 "Preludio trágico" 演奏会用練習曲第1番、悲劇的な前奏曲
ポンセは12曲の演奏会用練習曲を作ったが、内1、3、6、7、8、10、12番の楽譜のみが現存している。ちなみに現存しない欠番のうち2、4、5番の曲名はそれぞれ、2番:〈Capricho-Estudio〉、4番:〈Morire habemus〉(1912年作曲の組曲《Album de amor》の第6曲〈Tú eres mi amargura y mi dolor....〉に入れられたという説がある)、5番:〈La hilandera de la abuelita〉である(5番は楽譜は現存しないがポンセ自身の演奏の録音が残されている)。第1番は嬰ハ短調、A-B-A'-C形式。16分音符の連打が延々と続くのが、悲劇的な雰囲気の曲。この16分音符連打は、リストのピアノ曲《巡礼の年、第一年:スイス》の第6曲〈オーベルマンの谷〉を思わせると述べている資料もある。Bでは右手高音部の問いかけるようなモチーフと16分音符連打が掛け合いのように繰り返される。- Mazurka no. 1 en fa menor マズルカ第1番へ短調
マズルカはポーランドの民族舞曲で、その起源は12世紀にまで遡ることができる。しかしマズルカが盛んになったのは17世紀からで、さまざまなタイプのリズム型を発展させた。この伝統的なポーランドの舞曲をピアノ曲として完成させたのは言うまでもなくショパンである。ポンセの他のピアノ曲を見ても彼がショパンを敬愛し、ショパンの作品に大いに影響を受けたことは想像に難くないが、それにしてもこんなにマズルカを作曲するとは!。1900年に作曲された2曲のサロン風マズルカに引き続き、ポンセは1901年から1917年頃にかけ、楽譜が現存しているものだけでも21曲(紛失した作品も含めるとおそらく27曲以上)ものピアノのためのマズルカを作曲した。カストロ、エロルドゥイ、ビジャヌエバといった19世紀に活躍したメキシコの作曲家たちもマズルカを作曲しているが、それら先輩作曲家たちのマズルカはあくまでサロン向きの軽い作品であったのに対して、ポンセのマズルカはショパンの精神を受け継いだような、シリアスで、じっくりと演奏会で聴いてもらうための作品である。彼のマズルカは14番以外は全て主調が短調で、ポンセらしい悩ましい旋律があちこちに現れる。ショパンのマズルカが「ショパン的」であると同時に「ポーランド民族舞曲」の雰囲気を感じさせるのに対し、ポンセのこれらのマズルカは「99%ポンセ的」と言っていいような、ポンセ独自の世界を築いているのが興味深く、ピアノ曲「マズルカ」のジャンルにおいて、ショパンと双璧をなす作曲家とポンセを呼んでは褒め過ぎであろうか?。曲の構成は第3番(A-B-C-A-B形式)と第19番(A-B-B-A-B形式)を除いてA-B-A-C-Aのロンド形式からなり、クープレにあたるBとCは、Bが楽譜にVivoと記された速い部分からなり、一方Cはゆったりとしてメロディックなことが多い。当HPのマズルカの解説でA、B、Cの部分とか書いてあるものは、特に断りのない限りA-B-A-C-A形式の中のそれぞれの部分を指しています。ポンセのマズルカは1番から27番まであるとされているが、21、22、24、25、26番の楽譜は現存せず、20番と23番は同一で、また18番と27番は同一である。そのため現在我々が聴くことのできるのは1番から20番までとなる。作曲年が不詳の作品が多いが、楽譜の初版年などを基にした各曲のおおよその作曲年は以下の通り。第1番(不詳で1901年以降)、第2番(1901年)、第3番(1901年)、第4番(不詳で1901年以降)、第5番(1903年)、第6番(1911年以前?)、第7番(1915年以前?)、第8番(1915年以前?)、第9番(1915年以前?)、第10番(1915年以前?)、第11番(1911年以前?)、第12番(1911年以前?)、第13番(1907-1909年頃)、第14番(1915年以前?)、第15番(1912年以前?)、第16番(1910年)、第17番(1911年)、第18番(1917年)、第19番(1917年以前?)、第20番(1917年以前?)。曲の番号順に作曲されたと仮定すると、第6番から第15番までは1903年から1910年の間に作られたと考えるのが妥当である。
マズルカ第1番へ短調は、音高を上げながら繰り返す冒頭のモチーフからして、それまでのサロン風マズルカとは一線を画した斬新な趣きだ。続いて現れる旋律は憂いを帯びている。Bは変イ長調。Cの変ニ長調の部分で聴かれる大胆な転調(変ニ長調→イ長調)や半音階的和音進行は、ポンセの和声への新しい試みを感じさせる。- Mazurka no. 2 en do sostenido menor マズルカ第2番嬰ハ短調
この曲は、1901年頃に《10ª Mazurca de salón》として作曲されたが、1911年頃に《Mazurka no. 2》として出版された。Aは心に沁み入るような切ない旋律が美しい。Bはホ長調。Cはイ長調で、中音部に現れる抒情的な旋律はチェロの音色を思わせる。- Mazurka no. 3 en fa menor マズルカ第3番へ短調
この曲は、1901年頃に《7ª Mazurca de salón》として作曲されたが、1911年頃に《Mazurka no. 3》として出版された。A-B-C-A-B形式で、1901年の自筆譜を見ると、当初はA-B-C-Aで終りにするつもりでAの最後に "FIN(終り)" と記されている文字が横線で抹消され、Bの最後に "FIN" と書き加えられている。Aは和音が半音階進行で不安な響き。Bは変イ長調だが、2小節毎にどんどん転調していく。Cは変ニ長調になる。- Mazurka no. 4 en fa sostenido menor マズルカ第4番嬰へ短調
Aは随所に現れる3連16分音符、5連16分音符などが引き締まった雰囲気。Bは嬰ハ長調。Cはニ長調になり、ポンセらしいメロディックな旋律が朗々と奏されるのが対照的で、いい構成の作品。1902年頃
1903
- Estudio de concierto no. 3 "Hacia la cima" 演奏会用練習曲第3番、頂上に向かって
ホ短調、A-B-C-D-B-コーダの形式。雷のような下行アルペジオと両手交互の16分音符連打音が連続する練習曲で、Bの部分では両手連打音の上に、悲しげな旋律が浮かび上がるように奏される。- Hojas de álbum アルバムの一葉
全体的にシューマンをやや思わせるロマンティックな組曲。第1番はホ長調、A-B-A形式。この組曲の中でも最もポンセっぽい和音進行や旋律の盛り上がりをみせるロマンティックな曲。Bはイ長調になる。第2番はハ短調、A-B-A形式。四声のポリフォニックな動きの中で、哀愁漂う調べが奏される。Bはハ長調になる。第3番は変ホ長調、A-B-A形式。組曲中、唯一の速い曲で、スケルツォ風の音型が跳ね回る。Bは変ロ長調になる。第4番は変イ長調、A-B-A'形式。ゆったりと流れるような三連符の曲。第5番はニ長調、A-B-A-B形式。メキシコの先輩作曲家エルネスト・エロルドゥイに献呈されていて、副題に "Elorduyana" と名付けられている落ち着いた曲。Aの終わりでの転調がお洒落で、Bはト長調になる。- Mayo 5月
変ロ長調、A-A-B-A'形式。5月の春の雰囲気を素朴に静かに描写している。シューマンのピアノ曲をやや思わせる雰囲気。Bは変ホ長調になる。- Mazurka no. 5 en do sostenido menor マズルカ第5番嬰ハ短調
冒頭のAは、悲しげな旋律が1回目はpで、2回目は両手オクターブで重々しくffまで劇的に奏される。Bは変イ長調。Cはイ長調で、前半は抒情的な旋律がpで奏されるが、後半突然fになり旋律がオクターブで力強く奏される方法はポンセお得意のパターン(に思えます)。ダイナミックレンジの広い、聴きごたえのある傑作。- Once miniaturas 11のミニアチュール
この組曲は1902年より作曲し始め、1903年に《Bagatelles》の曲名でアグアスカリエンテスにて初演されたらしい。その後ドイツ留学中の1906年にBreitkopf & Härtelより出版されている。各々は1分弱の短い曲で、1曲1曲が決まった演奏技法で作られており練習曲のようにも見える。第1曲はホ長調、A-B-A形式。左手アルペジオにのって爽やかな旋律が奏される。第2曲はハ長調、A-B-A'形式。快活な曲。第3曲はハ長調、A-B-A'形式。速い右手のパッセージはツェルニーの練習曲を思わせる。第4曲は変ロ長調、A-A'形式。前打音を伴った両手オクターブ和音の曲。第5曲は変ト長調、A-A'形式。オクターブながら軽快な旋律。第6曲は変ト長調、A-B-A形式。オクターブの和音が連続する曲。第7曲は変ロ長調、A-B-A'形式。優しいワルツが奏される。第8曲は(しいて言えば)変ロ短調、A-B-A形式。両手アルペジオが華やかな曲。第9曲はイ長調、A-B形式。ポリフォニーの静かな曲。第10曲はホ長調、A-B-A形式。オクターブの和音の跳躍が連続する。第11曲はヘ長調、A-B-A'形式。囁くような旋律の曲。- Bersagliera ベルサグリエリ
陽気なマーチ風の曲。元は《Alba Marcia》という曲名だったが、彼は後のイタリア留学中にその曲名を《ベルサグリエリ Bersagliera》に変えた。ベルサグリエリとは1836年創設のイタリア歩兵隊の兵団の名称。ヘ長調、A-B-B-C-A-B形式。AとBは三連符が軽快で心地良い。Cは変ロ長調になり、両手オクターブ和音連打が賑やかだ。1905
- Estudio de concierto no. 5 "La hilandera de la abuelita" 演奏会用練習曲第5番、おばあちゃんの糸紡むぎ
この曲の楽譜は現存しないが、1942年頃にポンセが出演したラジオ番組の中でこの曲をポンセ自ら演奏した録音が残されていて、それを元に採譜がなされ、ピアニストのArturo Nieto-Dorantesが録音したCDが2022年にリリースされている。そのラジオ番組でポンセは「イタリア留学中に滞在していたボローニャで、ある家族に度々食事に招待されたが、その家の老婦人が糸を紡いでいたのを見てこの曲を思い付いた」と語っている。ト長調、A-B-A'形式。Aは息の長い旋律が奏され、その上下を音域の広いアルペジオが織物のように纏う。Bは中音部にトレモロが続く。- Tiempo de schottisch ショッティッシュのテンポで
イ長調。A-A-B-A-C-A形式。ラグタイム風のシンコペーションを用いた愉快な曲。但しテンポは速くなく上品な感じ。Bは嬰ヘ短調、Cはニ長調になる。- Tres preludios 3つの前奏曲
留学先のボローニャで出版。各曲は1分弱の短い曲から成る。1番ハ短調はA-B-A-コーダの形式。重音の音階などが動き回る。2番ハ長調は3連符アルペジオの連続。3番変ニ長調はA-B-A'形式。和音の連続の曲。- Historia de un alma, Parte I. Preámbulo (La noche) ある魂の物語、第一部 序曲(夜)
夜の静寂な雰囲気を描写した約7分の比較的長い曲。この曲は後の1910年に、弦楽オーケストラのための組曲《夜の印象 Estampas nocturnas》の第1曲〈La noche〉という曲名で編曲された。《夜の印象》での弱音器を用いたデリケートな弦楽器の音色に比べるとピアノの原曲は単調で、あくまでスケッチとして書かれた感じである。- Duerme... 眠り・・・
3曲から成る組曲《夜のスケッチ集 Bocetos nocturnos》の第1曲。〈Duerme...〉の楽譜の表紙には第2、3曲の題名〈Valse melancólico〉、〈Visión sideral〉も記されているが第2、3曲は現存していない。ヘ長調。半音階的なオブリガートと、全曲通して続く左手ド音のオスティナートが微睡みの雰囲気を良く出している。この曲も弦楽オーケストラのための組曲《夜の印象》の第3曲〈子守歌 Arrulladora〉の曲名で編曲された。- Legende 伝説
ポンセの初期のピアノ曲の中でも突出してピアニスティックな作品。嬰ハ短調。まず、謎めいた問いかけのような主題が現れる。続いて左手16分音符アルペジオの伴奏にのった情熱的な旋律が展開され、タランテラ風の部分が現れ、最後は冒頭の主題が華やかに再現され終わる。1905-1908年頃
- Introducción, preludio y fuga sobre un tema de J. S. Bach J. S. バッハの主題による序奏、前奏曲とフーガ
この曲は、Otto y Arzoz社が初版を出版した時はフーガの部分のみであったが、ポンセの死後に見つかった2つの楽譜を、ポンセの弟子であるカルロス・バスケスが補筆して、ポンセの没後の1968年に《Introducción, preludio y fuga sobre un tema de J. S. Bach》として出版された。(但し、現在この楽譜を出版しているPeermusicは、《Preludios y Fuga sobre un tema de J. S. Bach》というタイトルで出している。)バッハの《平均律クラヴィーア曲集第1巻第9曲ホ長調、BWV854》のフーガが用いられている。曲は3部から成っている。最初はPrelude Iで、ポンセの自筆譜はロ短調で始まるが、カルロス・バスケスは後のフーガとの繋がりを考慮してホ短調に始まるように移調している。低音のオクターブの旋律に高音の16ふん音符アルペジオが重なる。次のPrelude IIはホ長調、中声部に現れるバッハのフーガによる旋律にアルペジオが纏わりつくが、和声はバッハとは似ても似つかぬポンセらしいロマンティックな味付け。最後はフーガでホ長調、3声から成る。このフーガは見事な出来で、ドイツ留学によりポンセがいかに対位法をしっかり身につけたかを窺わせる。終わりは低音部がオクターブとなり荘重に終わる。- Pavana パヴァーナ
イ長調、A-A-B形式。題名通りの古風で落ち着いた曲。おおむね右手2声+左手1声から成るポリフォニックな作り。1906
- Vier kleine Fugen für den Anfänger (Cuatro pequeñas fugas para los principiantes) 初心者のための四つの小さなフーガ
ポンセがベルリン留学中(またはイタリアのボローニャ留学中)の作品で、楽譜はドイツで初版された。ト長調、ヘ長調、ト長調、ハ短調の4曲から成る。全曲とも最初から最後までずっと2声のフーガが続く。留学中のポンセが、対位法の勉強に取り組んでいた姿が窺えるような作品である。- Preludio y fuga sobre un tema de Haendel ヘンデルの主題による前奏曲とフーガ
この曲の作曲年には2つの説がある。一つはポンセがベルリン留学中、師のマルティン・クラウゼの弾くヘンデルの《クラヴィーア組曲第4番》のフーガホ短調を聴いたポンセは一晩でこの曲を作り、翌朝同級生を驚かせたとの逸話がある。また一方では、キューバ滞在中の1915年にこの曲を作ったとポンセ自身が語ったという資料もある。ヘンデルのフーガを彼はニ短調に変えている。前半の前奏曲はパイプオルガンの音色を思わせる重厚な雰囲気。後半のフーガの部分は16分音符が右手に左手にとピアニスティックに鳴りまくり、力強く爽快な傑作である。- Estudio de Moscheles モシェレスの練習曲
イグナツ・モシェレス (1794-1870) はチェコ生まれのドイツのピアニスト、作曲家。この曲はモシェレスの《24の練習曲、作品70の1》の編曲で、和声は古典的で左手の16分音符が無窮動な練習曲らしい作品。ハ長調。- En una desolación (El riego) 悲しみの中に(エル・リエゴ)
ポンセは(おそらく1940年頃の)ラジオ番組のインタビューで、イタリア留学のために1905年1月にヴェネチアに着いた時のことをこう語っている(要約です)。「とても寒かった。列車は朝5時にヴェネチアに着き、まだ辺りは暗かった。ゴンドラの船頭は私の姿を見て、イタリアでトラットリアと呼ばれるみすぼらしいカフェの一軒に私を招いてくれた。そこで私は陽が昇るのを待った。ゴンドラはのっそりと行き、運河の水にゴンドラの影が映り‥‥しかし私は、遠い祖国と、財布の中の僅か150リラと、漠然とした自分の将来を考ていて、悲しいひと時であった。そこで、短い曲の "En una desolación" が浮かんだ。」この曲の楽譜は1906年に出版されたが、後の1908年にポンセはプエブラ州テワカンのエル・リエゴ El riego という地区のアシエンダ(大農園)に滞在していた時に楽譜に手を加えており(冒頭に "El riego - Tehuacán, Abr. 20 1908" とのみ記された自筆譜が残されている)、即ちこの曲は2バージョン存在する。A-B-A形式。不安定な和音の中で半音階を下る暗い旋律が聞かれる。- Notturno (No. 1) 夜想曲(第1番)
Notturno(番号なし)として出版された。ショパン風の夜想曲だが、内省的な雰囲気の作品。嬰ヘ短調、A-B-B'-A-コーダ形式。5小節目には早々と変ロ短調に転調したりと、転調が多い。中間部は嬰ヘ長調~ト長調となり、ポンセらしくロマンティックに盛り上がる。再現部A'では16分音符の半音階的オブリガードが絶妙。- Nocturno II 夜想曲第2番
変ニ長調。右手中声部にさざ波のような32分音符伴奏がずっと続き、左手が飛び越えて高音部に息の長い旋律を歌う。音型も和音進行もややリストっぽいかな。1907
- Estudio de concierto no. 7 "Juventud" 演奏会用練習曲第7番、青春
ロ長調、A-B-A'-C-A'形式。題名通りの生気に満ちた曲。全曲右手はほとんどオクターブで、オクターブが延々と続くのはちょっと騒々しい。Cはト長調になる。- Estudio de concierto no. 8 "Preludio galante" 演奏会用練習曲第8番、優しい前奏曲
イ長調、A-B-A-C形式。演奏会用練習曲全曲中、唯一の静かな曲。中音部の息の長い旋律に右手のアルペジオが川の流れのように添えられるのが美しい。- 2ème Caprice カプリーチョ第2番
1899年に作曲された《Estudio de concierto no. 6 "Alma en primavera"》の元の題名が《Capricho-estudio》のため、この曲は「第2番」と命名された。ベルリン留学中のポンセのピアノの師であるマルティン・クラウゼ(リストの弟子)にこの曲は献呈された。ホ長調、A-B-C-D-B'-A'-コーダの形式(ソナタ形式とする文献もあり)。右手に左手にと華やかな16分音符が続くリスト風の名人芸的なやや騒々しい曲。- Página de álbum アルバムの頁
1907年12月に作曲。1分半程の短い曲。不安定な和音が荘厳に響き、最後は一応ト長調で終わる。1909
- Primer amor 初恋
ト長調、A-A-B-A形式。ポンセお得意のロマンティックな旋律の甘い曲。Bはホ短調になる。- Arrulladora mexicana (La rancherita) メキシコの子守歌(ラ・ランチェリータ)
メキシコ民謡〈ラ・ランチェリータ〉の旋律を元に作曲。ト長調、A-A'-A"形式。素朴な旋律にコラール風の和声が付き、その中から対旋律が見え隠れする。旋律の繰り返しでは、対旋律が16分音符半音階進行を伴ったり(下記の楽譜)、旋律が中声部に移ったりと変奏される。ポンセらしい繊細で柔らかい和声が心暖まるような曲。
Arrulladora mexicana (La rancherita)、22-27小節、Wagner y Levien. より引用- Scherzino mexicano メキシコ風スケルツィーノ
楽譜の冒頭には "A Clema" と後にポンセの妻となるクレメンティーナ・マウレル Clementina Maurel に献呈されているが、1909年頃から既に知り合っていた仲なのかは不明である。ニ長調、A-B-A-B-A形式。楽譜は6/8拍子だが右手の旋律がしばしば3/4拍子になり、2拍子と3拍子のヘミオラがメキシコ的。Bはベースや対旋律が半音階で下りつつ転調していく。原曲はピアノ曲だが、Manuel López Ramosによりギター曲に編曲されている。ピアノを弾く人には殆ど知られてない曲だが、クラシックギターの愛好家にとっては良く知られた有名曲。- Vespertina 夕方
ニ長調、A-B-A'形式。Aは題名通りの夕暮れの空を描写した、ゆったりとしながらも哀愁が漂う雰囲気。Bはロ短調に始まり、頻繁に転調しながら両手オクターブになって旋律は激情する様に奏されるが、再びA'で冒頭の静かな旋律が再現されて終わる。この曲は1907?年-1911年にかけて作られた《ロマンティックな小品集 Trozos románticos》の手稿譜(ポンセ以外の筆耕者による)にも載っているが、同小品集の出版譜からは省かれている。またBの部分を24小節から18小節に短縮したバージョンが、1912年に出版された《愛のアルバム Album de amor》の第4曲〈君の目は黄昏のように甘い・・・ Tus ojos tienen la dulzura de los crepúsculos.......〉として使われた。1903-1910年頃
- Amorosamente, Vals lento 愛をこめて、ゆっくりとしたワルツ
ト長調、A-B-A-C-A形式。題名通りの求愛の気持ちを音にしたような雰囲気の曲。Bはニ短調で何とも切ない調べだ。Cは変ホ長調で優雅な雰囲気に。- Apasionadamente, Vals lento 情熱的に、ゆっくりとしたワルツ
ト長調、A-B-A'-C-A形式。Aは何かに焦がれるような切ない旋律が奏される。Bは変ホ長調で前打音混じりの軽い旋律が現れる。Cはハ長調で優美な響き。- Mazurka no. 6 en re menor マズルカ第6番ニ短調
この曲は1911年にマズルカ11番、12番と共にメキシコのEnrique Munguía社から出版されたが、実際の作曲年はもっと以前と思われる。Aの部分はメロディックで悩ましい旋律が印象的で、サビの部分への盛り上げ方など一聴しただけでポンセ臭さ?が匂ってくる。Bはヘ長調。Cの変ロ長調もいい盛り上がりを聴かせる。- Mazurka no. 7 en fa sostenido menor マズルカ第7番嬰へ短調
この曲は1915年頃にマズルカ8番、10番、13番と共にメキシコのWagner y Levien社から出版されたが、実際の作曲年はもっと以前と思われる。Aの部分は付点リズムや5連16分音符が引き締まった感じの旋律だ。Bはイ長調。Cのニ長調は対照的にロマンティックな響きで、これまたポンセらしい。ポンセ自身、この曲をとても気に入っていてコンサートで度々弾いたとのこと。- Mazurka no. 8 en do sostenido menor マズルカ第8番嬰ハ短調
1909年にポンセ自身が演奏したという記録がある。Aの部分の旋律は2小節毎にため息をついているような感じ。Bは変イ長調。Cはイ長調で、3段楽譜になり、朗々とした旋律の下で伴奏の和音が半音階で上がっていく。- Mazurka no. 9 en sol menor マズルカ第9番ト短調
冒頭から不協和音で始まり、その後も調性がぼやけた作りなのが斬新な曲。ポンセのマズルカは、この9番以降こうした調性の「ぼかし」が度々見られるようになる。Bは変ロ長調、Cは変ホ長調になる。- Mazurka no. 10 en do sostenido menor マズルカ第10番嬰ハ短調
跳躍を繰り返すような活動的なモチーフで始まる。この曲も最初の4小節辺りまで、短調の曲だということも分からない和音進行。Bは変イ長調で、マズルカ第8番のやはりBのモチーフと似ている。Cのホ長調はロマンティックかつ情熱的。- Mazurka no. 11 en la menor マズルカ第11番イ短調
Aの部分は、哀調を帯ながらもはっきりとしたリズムの力強い旋律でマズルカらしい。Bはハ長調。Cのヘ長調は3連符の伴奏が躍動的。演奏会向けに相応しいいい曲だ。- Mazurka no. 12 en si menor マズルカ第12番ロ短調
Aの部分は、転調して長調になったりの落ち着かない雰囲気。Bはニ長調。Cのト長調は、ちょっと半音階進行混じりの旋律や対旋律がポンセらしく、とってもロマンティックで美しい。- Mazurka no. 13 en fa menor マズルカ第13番へ短調
Aの部分は左手伴奏が3度の重音のみで、その上に淋しげな旋律が奏されのが素朴な雰囲気。Bは変イ長調で同じモチーフが用いられている。Cは変ニ長調だが、転調でイ長調に飛んでいくのが幻想的。- Mazurka no. 14 en re bemol mayor マズルカ第14番変ニ長調
ポンセの20曲のマズルカの中で唯一長調で始まるが、半音階的和音進行により調性はぼやけ、7小節目で初めてI度(D♭)の和音が現れる。Bは変ロ短調。Cがイ長調だと分かるのは最後になってだ。- Mazurka no. 15 en do menor マズルカ第15番ハ短調
楽譜の冒頭に「葬送 Fúnebre」と記されている通り、重々しい足取りのような左手低音の4分音符にのって、悲壮感あふれる旋律が奏される。Bはハ長調。Cの変イ長調は、Aとは対照的に中声部に夢見るような旋律が歌われ、後打ちのリズムな伴奏がその上で奏される。- Variaciones sobre un tema popular religioso 宗教歌の主題による変奏曲
ト長調。賛美歌《Oh María, Madre mía》の旋律をテーマに、モーツァルトの変奏曲を思わせる7つの変奏が続く。1907?-1911
- Trozos románticos ロマンティックな小品集
ポンセがメキシコシティーに自分のピアノアカデミーを設立した頃の作品(一部の曲はヨーロッパ留学中の1907年頃の作曲との説もあり)。1910年時点でポンセは28歳独身!で、若い時の彼の写真をみると結構ハンサム。14曲それぞれのロマンティックな小品は全て別々の女生徒に献呈されていて、さぞかし女生徒にモテモテだったんでしょう。第1番BarcarolettaはベネチアのRina Gilardiに、第6番Su primer miradaはキーウのVera Epsteinに、第9番DeseoはベルリンのElisabeth Bokemayerに献呈されているが、彼女らはポンセのヨーロッパ留学中の教え子だったのか?国際的である。それぞれの女生徒の演奏レベルに合わせて各曲は作られたとのことで、簡単な曲からかなり難しい曲まで様々で、ポンセお得意のロマンティックな小品が並ぶ。
- Barcaroletta 小さな舟歌
ヘ長調、A-B-A形式。ベネチアの彼女?に献呈するに相応しい、ゴンドラがゆったりと進む光景を描写しているよう。Bは変ニ長調になる。- Cuando viene la primavera 春の訪れ
ホ長調、A-B-A形式。春が来た喜び一杯!といった感じのワルツ。Bはロ長調になる。- Souvenir 想い出
変イ長調、A-B-A形式。メンデルスゾーンの無言歌を思わせる抒情的な曲。Bはヘ短調になる。- Malinconia 憂うつ
ト短調、A-B-A形式。ため息が出てくるような悲しげな旋律が奏される。Bは左手アルペジオにのって嘆くような旋律が現れる。- Quimera 幻想
ヘ長調、A-A-B-B-A形式。踊るような軽快な曲。Bはニ短調〜ヘ短調と転調する。- Su primer mirada 初めてのあなたの眼差し
変ト長調、A-B形式。前半Aはレシタティーボ風、後半Bはワルツがアジタートしつつ奏される。- Berceuse 子守歌
自筆譜では1909年作曲となっている。イ長調、A-B-A形式。属九の和音や増三和音がポンセくさい響きの、優しく語りかけるような曲。Bはホ長調になる。- A toi 君へ
ホ長調、A-B-A'形式。最初は優しく、Bは情熱的に語りかける。- Deseo 願い
変ロ長調、A-B-A'形式。転調が多く、ドラマティックに盛り上がる。- Hoja de álbum アルバムの一葉
この曲は1911年にポンセが書いた自筆譜が残されている。イ長調、A-B-A形式。シューマン風の抒情的な旋律がゆったりと奏される。Bはヘ長調になり、scherzendoと記されている通り軽快になる。- Petit prèlude 小さな前奏曲
変ニ長調、A-A-A'形式。音域の広いアルペジオの練習曲風。- Jeunesse 思春期
変ト長調、A-B-A形式。跳ねるようなスタッカート混じりの旋律が初々しい雰囲気のワルツ。- Página de álbum アルバムのページ
イ長調、A-B形式。四声から成る落ち着いた曲。- Scherzino スケルツィーノ
ホ短調、A-A-B-C-C-A-B形式。スタッカートの両手和音連打の曲。Cはト長調になり、ここだけ流れるような旋律になる。1910
- Mazurka no. 16 en si bemor menor マズルカ第16番変ロ短調
このマズルカ第16番と、17番、18番の楽譜の冒頭には「深い悲しみをもって con profondo dolore」と記されていて、いずれも重々しい悲しみを表したような曲調である。第16番はAの部分は、複雑な和音進行。対してBの変ニ長調と、Cの変ト長調はロマンティック。1911
- Mazurka no. 17 en mi menor マズルカ第17番ホ短調
この曲の自筆譜には「1913年7月15日、José Pomarに捧げる‥‥」と記されているが、その2年前の1911年にポンセの弟子により演奏されたとの記録がある。Aの部分は、付点リズムの連続が重々しい。Bはト長調。Cのホ長調は右手旋律と左手対旋律が対話するようにかけあい、いい雰囲気。- 1ª Rapsodia mexicana メキシコ狂詩曲第1番
ポンセはメキシコ狂詩曲を2曲残しているが、2曲とも演奏時間7分の大曲で名人芸的な技巧を要する難曲。この第1番は《ハラベ・タパティオ》(メキシコ中西部にあるハリスコ州の民族舞踊)の旋律を用いている。Maestosoと楽譜に記された両手オクターブの重々しい序奏に引き続き、Allegro, ma non troppo、嬰ヘ短調の主題が現れ、左手にフーガ風の応唱が加わり、更に目まぐるしく転調しながら盛り上がる。中間部はAndantino espressivo、嬰ヘ長調の静かな部分で、民謡《El palomo》の旋律が現れ、一部エストレリータの旋律も加わる。再現部Allegro con brioは最初の主題が嬰ヘ長調~ヘ短調で現れ、ハ短調を経て、嬰ヘ長調に転調してから主題が左手のオクターブで奏され、それに右手の速いアルペジオが重なるのがとても派手で印象的!。最後のコーダは長調で華やかに終わる。曲の構成も良く、聞きごたえのある傑作。ポンセの弟子のカルロス・バスケスはこの曲の再現部に、更なる右手アルペジオを加えたカデンツァを作っている(ピアニストのエクトール・ロハスのによる録音、およびグスタボ・モラレスによる録音、アルトゥーロ・ニエト=ドランテスによる録音はこのカデンツァ入りのバージョンである)。1912
- Estudio de concierto no. 10 "Jarabe" 演奏会用練習曲第10番、ハラベ
彼の生地、サカテカス州の民謡《ハラベ》を基に作られた曲。ニ長調、A-B-A'形式。冒頭は右手に左手にと6度重音の16分音符が続き、いかにも練習曲らしい難技巧である。Bはニ長調で始まり、落ち着いた抒情的なポンセらしい旋律が現れる。- Album de amor 愛のアルバム
7曲からなる「愛のアルバム」で各曲の題名も色っぽいが、音楽の方も題名通りの甘い曲揃い!。形式など気にせず即興のように書いた風の、いい感じの組曲です。
- Diálogo de amor 愛の会話
変ト長調。テノールの声部に現れた甘い旋律はソプラノ声部に引き継がれ、その後、アリアの二重唱さながらの二声の旋律が正に愛の会話のように奏され、最後はオクターブで終わる。- Cerca de tus ojos.... 君の目の前で・・・
ニ長調、A-B-A'形式。ポルタメントのような32分音符半音階混じりの旋律が甘い雰囲気。- Momento de amor 愛のひととき
変ニ長調、A-B-A形式。優しく語りかけるような旋律が奏される。Bは嬰ハ短調になる。- Tus ojos tienen la dulzura de los crepúsculos....... 君の目は黄昏のように甘い・・・
原曲は1909年作曲の《夕方 Vespertina》という独立曲で、その後ポンセは中間部を短縮して当組曲の第4番として挿入した。ニ長調、A-A-B-A'形式。やや哀愁ただよう旋律がゆったりと流れる。Bはロ短調になる。- En la paz del sendero florido... 花咲く小道で・・・
イ長調。可憐な雰囲気の曲。- Tú eres mi amargura y mi dolor.... 君を思うと僕は辛く苦しい・・・
嬰ヘ短調。この組曲の中で、唯一重々しい響きの曲。悲劇的なな両手オクターブ和音が鳴り響く、辛く苦しい恋の曲。- Eternamente.... 永遠に・・・
ホ長調、A-B-A-B形式。この組曲を締めくくるに相応しい落ち着いた曲。前半Aは心に沁み入っていくような和音が静かに響く。後半には有名な《エストレリータ》のモチーフが現れる。- Intermezzo no. 1 間奏曲第1番
1912年前後の作曲と推定しますが、はっきりした作曲年は不詳である。ホ短調、前奏-A-B-A-コーダの形式。2分少々の短い曲だが、その物悲しい旋律でポンセのピアノ曲の中では有名な一曲。7小節の前奏の後に右手に三度重音で現れる旋律が悲しげだが、その8小節後に右手の旋律の繰り返しに重なって現れる中音部の左手の歌うような旋律も悩ましい。- Tema mexicano variado メキシコの主題による変奏曲
メキシコの何かの民謡が変ニ長調のテーマとしてまず現れる。第1変奏は左手の三連符の速いパッセージ。第2変奏は嬰ハ短調で旋律が右手に左手にと交互に現れる。第3変奏は変ニ長調に戻り、4声のポリフォニー。第4変奏はオクターブの和音が高らかに鳴り響くが、一番最後は静かに回想的に曲を閉じる。- Scherzino (A monsieur Claude Debussy) スケルツィーノ(クロード・ドビュッシー氏へ捧げる)
この曲を作った1912年に、ポンセは教え子と共にメキシコ初のドビュッシーのピアノ曲全曲演奏会を催している。曲はA-B-A形式で、Aの部分は全音音階を多用した溌溂としたスケルツォ。Bはゆったりとしたテンポで印象派的な和音が続く。この頃すでにポンセがドビュッシーの作曲技法をある程度習得していたことを窺わせる作品だ。- Serenata mexicana "Alevántate" メキシコのセレナーデ「起きてよ」
メキシコ民謡の編曲。ピアノ+歌詞の付いた旋律から成るヘ長調の楽譜と、ピアノ譜と欄外に書かれた歌詞から成る変ニ長調の楽譜の2種類がある。A-A-B形式。ポンセ独特の半音階的対旋律を和音に織り込んでいて優しい曲。- Primera sonata ソナタ第1番
この曲はポンセ自身により、1913年にメキシコシティで、また1916年にニューヨークとハバナで演奏したとする記録があるが、楽譜は曲のごく一部の自筆譜しか現存しない。1916年3月27日にニューヨークのエオリアンホールで行われた、ポンセの全曲自作曲リサイタルについて、ニューヨーク・ヘラルド誌は「ピアノソナタは、ポンセが現代フランス作曲技法を会得し、半音階的趣味を現している‥‥」と評している。各種資料や、ポンセの弟子のカルロス・バスケスが残した一部の手稿譜などを元に、ピアニストのArturo Nieto-Dorantesが再構成・補筆して録音したCDが2022年にリリースされている。第三楽章はポンセが遡る1907年に作曲した《カプリーチョ第2番 2ème Caprice》とほぼ同じである。
- La vida tumultuosa 混乱した人生
- Reposo de amor 愛の安らぎ
- En el esplendor de la alegría 喜びの絶頂の中に
1913
- Cántico a la memoria de un artista ある芸術家を讃える歌
楽譜は現存せずどんな曲かは不明である。1913年5月25日のメキシコシティでのポンセのリサイタルについて、"El Independiente" 誌は「"Cántico a la memoria de un artista" は憂うつな、とても現代的なフレーズで始まる。そこでは対位法的パッセージが発展していく‥‥」と記している。- Estudio de concierto no. 12 (Tempo di valse) "La vida sonríe..." 演奏会用練習曲第12番(ワルツのテンポで)、微笑み
変ト長調、A-B-A-C-A-B-コーダの形式。Aは対旋律が絡む華やかなワルツ。
Estudio XII. Tempo di valse "La vida sonríe..."、22-27小節、Enrique Munguía. より引用
Bは4オクターブのアルペジオが華麗に上下する。
Estudio XII. Tempo di valse "La vida sonríe..."、57-60小節、Enrique Munguía. より引用
Cは変ハ長調になり、リスト風の両手オクターブ交互連打が怒濤の迫力。
Estudio XII. Tempo di valse "La vida sonríe..."、105-115小節、Enrique Munguía. より引用
ポンセの演奏会用練習曲のなかでは最も長い曲。この曲に限らず、ポンセの演奏会用練習曲はどれも非常にピアニスティックに出来ているのだが、(ショパンのエチュードと比べると)長い割には構成や展開が冗長な感じで、あまり成功作とは言えないように思う。- Preludio mexicano (Cielito lindo) メキシコの前奏曲(シエリト・リンド)
かの有名なメキシコの歌曲《シエリト・リンド》(キリノ・メンドーサ・イ・コルテス作詞・作曲、曲名は直訳すると「美しい空」の意味だが、この場合は親しかったり愛する人を指す)をピアノ用に編曲したもの。イ長調、A-B-A'形式。演奏レベルは中級者向きで、個人的にはもうちょっと派手な編曲が聴きたかったなあ~、とも思うが、これはこれでほのぼのとした和音がいい感じで、対旋律にはポンセお得意の半音階の経過音や倚音が混じる素敵な編曲である。
Preludio Mexicano (Cielito lindo)、1-19小節、Wagner y Levien. より引用- IIª Rapsodia mexicana メキシコ狂詩曲第2番
この第2番も1番に負けず劣らずの派手な曲。序奏-A-B-C形式。冒頭は、メキシコで誕生日の歌として有名な《ラス・ マニャニータス Las mañanitas》の旋律が荘厳にヘ長調やニ短調で序奏される。その後同じ旋律がヘ短調でフーガ風に現れ、何度も転調しながら変奏していく。Bは旋律は同じ《ラス・ マニャニータス》だが、ぐっと静かになりヘ長調で現れる。しかしそれも間もなくだんだん騒がしくなり、最後は民謡《アトーレを飲もう Vamos a tomar atole》が変ニ長調で現れ、陽気な曲調は変奏するたびに盛り上がり、最後は華やかにオクターブや和音を鳴らしまくって終わる。- Serenata frívola くだらないセレナーデ
イ長調、A-B-A'-コーダの形式。ギターの調弦を思わせる完全五度が鳴る序奏に引き続き、落ち着いたセレナーデが現れる。Bはヘ長調になり、ポンセらしい甘い調べがppで囁くように奏される。コーダでは、イ長調のままBの旋律が回想される。全曲長調の明るい曲であるが、私個人的には、月明かりの夜に恋人の家の窓の下でひっそりとギターの伴奏で歌う光景を想像します。1914
- Romanza de amor 愛のロマンセ
変ホ短調、A-B-A'-コーダの形式。悩ましい旋律が綿々と奏される愛の曲。最後のコーダは静かな変ホ長調に転調する。この曲は3年後に結婚するクレメンティーナ(楽譜には "Clema" と記載)に献呈されている。この曲を作った頃、二人の関係はどんなんだったのだろうか興味津々。- Minuetto (en mi mayor) メヌエットホ長調
この曲もフィアンセのクレメンティーナに献呈されており、1914年頃の作品と思われる。ホ長調、A-B-A'-C-A"形式。ポンセの初期のメヌエットに比べると成熟した出来を感じる。スタッカートが溌溂とした曲。Cはホ短調になる。- Balada mexicana バラーダ・メヒカーナ
ポンセのピアノ曲中で最高傑作!、と思う。私がポンセのみならず中南米のピアノ曲にのめり込むキッカケとなった記念の一曲。2000年9月に全音楽譜出版社よりラテン・アメリカ・ピアノ曲選メキシコ編が出版され、その中にバラーダ・メヒカーナも収録されたことにより今は楽譜の入手も容易になったが、それまではこれ程素晴らしい曲の楽譜がメキシコ国外では殆ど入手不可能であった。曲の構成は一種のソナタ形式。第1主題はイ長調でメキシコ民謡の《桃の木 El durazno》の旋律が対旋律を従えて奏される(下記の楽譜)。華やかに変化し盛り上がるが、全音音階混じりのパッセージが奏されつつ、やがてまた静かになる。
Balada mexicana、1-4小節、Universidad Nacional Autónoma de México - Escuela Nacional de Músicaより引用
続いて第2主題のメキシコ民謡(ポンセ自身が作った歌曲とする資料もあり)《私を思い出して Acuérdate de mí》が変ニ長調で現れる(下記の楽譜)。この旋律はトリルや波のような3連符の伴奏で彩られる。
Balada mexicana、104-111小節、Universidad Nacional Autónoma de México - Escuela Nacional de Músicaより引用
次に第1主題の変化したものが展開部のように現れれた後、再現部としてイ長調の第1主題が再び奏される。そして18小節のクレシェンドを経て主調のイ長調のまま第2主題がffの両手の和音連打で力強く演奏され(下記の楽譜)、最後はリスト風の両手オクターブ連打で終わる。
Balada mexicana、223-239小節、Universidad Nacional Autónoma de México - Escuela Nacional de Músicaより引用
曲の構成が以上の通りしっかり出来ていて飽きさせない上に、なによりも旋律も和声もきれいで、そして最終部への盛り上がりはもう最高~。《バラーダ・メヒカーナ》は4年後の1918年に、ポンセ自身によりピアノ協奏曲にも編曲された。
ちなみに、El Durazno(桃の木)とAcuérdate de mí(私を思い出して)の歌詞をスペイン語ですが紹介します。- Ven, ¡Oh luna! 出てきて、月よ!
ポンセは数十曲に及ぶメキシコ民謡を、歌とピアノのために編曲した。それらの多くは歌とピアノで、またはピアノ独奏のどちらでも演奏できるように編曲されている。《Ven, ¡Oh luna!》は同名のメキシコ民謡で、旋律は長調で穏やかだが、歌詞は恋人の不在を嘆く内容。ポンセの編曲変イ長調の旋律にシンプルな和声を付けただけだが、それがポンセらしく甘く美しい。- Canciones mexicanas XI "Cuiden su vida" メキシコ歌曲集第11番「お大事に」
これも民謡の編曲。A-A'-B-A"形式。楽譜は3種類あって、歌パートとピアノパートから成る楽譜は変ト長調の自筆譜とト長調の出版譜があり、一方ピアノ独奏の楽譜の脚注に歌詞が記された出版譜は変ト長調でる。後者のバージョンは、Bの後に派手な間奏があって盛り上がる(下記の楽譜)。
Canciones mexicanas XI "Cuiden su vida"、26-34小節、Enrique Munguía. より引用- Canciones mexicanas XII "Valentina" メキシコ歌曲集第12番「バレンティーナ」
バレンティーナとは1910年から1917年のメキシコ革命時代の女性兵士バレンティーナ・ラミレス Valentina Ramírez (1893-1979) のことで、1914年頃、彼女を讃える歌《バレンティーナ Valentina》(作詞・作曲者不明)が作られ、革命中には愛唱歌として親しまれた。曲はコリード corrido と呼ばれるメキシコの音楽ジャンルの一つで、ワルツのような3拍子のことが多い。ポンセの編曲は6/8拍子、へ長調、A-A-A'形式。三声〜四声のポリフォニーで書かれていて、ポンセお得意の半音階対旋律が暖かみのある雰囲気を醸し出している。1915
- Barcarola mexicana "Xochimilco" メキシコの舟歌「ソチミルコ」
ソチミルコは首都メキシコシティーの近郊にある水郷。その昔、アステカ族が湖に木杭を打ち込み囲いを作り、草を敷いた上に泥土を盛ってチナンパと呼ばれる耕作地にした。ソチミルコはその名残りで、今は水路をランチャと呼ばれる花船が行き交い、行楽地として日曜日にはメキシコ人の家族連れで賑わう所である。曲はト長調、A-B-A'形式。8分の6拍子の舟歌のリズムにのってメキシコ民謡《La barca del marino》が奏され、休日の午後ののどかなソチミルコの風景が目に浮かぶよう。聴いていると幸せな気分になれる。私の大好きな一曲。- Elegía de la ausencia アウセンシアのエレジー
右手中音部に絶え間なく続くシンコペーションは、キューバの舞踊コントラダンサのリズムの一つであるシンキージョで、このリズムに乗ってロ短調の悩ましく息の長い旋律が切れ切れに歌われる。アウセンシアは英語のabsenceに当たり不在とか欠如とかの意味だが、この曲名をどう訳したらいいのだろう?。楽譜の終わりには "Habana 1916" と記されているが、1915年にポンセが《祖国のエレジー Elegía de la patria》という曲名でハバナで演奏をした記録があり、同じ作品と思われる。いずれにせよ彼のキューバ滞在中の作品なことは明らかで、後に結婚することになるフィアンセのクレメンティーナに献呈されている。- Rapsodia cubana no. 1 キューバ狂詩曲第1番
ポンセがキューバに亡命して僅か1ヶ月後の1915年4月にハバナで初演。楽譜も同年にハバナのAnselmo López社から出版された。演奏時間10分の大曲。嬰ヘ短調、A-B-C-A'-B-D形式。まずAの長大な重々しい序奏が奏されるが、1,4,5,6小節のリズムはシンキージョである。引き続きBのダンソンのリズムにのった旋律が変奏されつつひとしきり盛り上がる。Cはニ短調で、キューバの作曲家ホルヘ・アンケルマン Jorge Anckermann (1877-1941) の歌曲《小川のせせらぎ El arroyo que murmura》の旋律が哀愁たっぷりと奏され、右手高音部32分音符の装飾音を伴って変奏され、途中から原曲の歌曲同様に長調に転調する。Dは嬰ヘ長調になり、6/8拍子の南国的な甘い旋律が現れ、旋律が中声部に移ると、その上で繊細な高音のトリルや音階が延々と続く。この曲は、旋律も音の使い方もきれいでポンセのピアノ曲の中でも最もピアニスティックな作品なのだが、構成がやや散漫なためか、10分も聴いてると退屈してしまうのが勿体なく思えます。- Rapsodia cubana no. 2 キューバ狂詩曲第2番
この曲はポンセ自身により、1915年11月にハバナで(初演?)、また1917年1月にメキシコシティで演奏したとする記録があるが、楽譜は現存せずどんな曲かは不明である。- Suite cubana キューバ組曲
何とも美しい響きに満ちた組曲で、ポンセのキューバ在中における最高傑作と言っていい作品に思えます。
- Serenata marina 海辺のセレナーデ
ト短調、前奏-A-B-A-コーダの形式。ギターの調弦を思わせる10小節の前奏に引き続き、スペイン風のホタのリズムに乗ってセレナーデが歌われる。Bは変ロ長調になり、さざ波の音を思わせる右手重音のアルペジオの下で、左手に息の長い旋律が現れる。- Plenilunio 満月
ト長調、A-B-A-A'-コーダの形式。満月の夜、静かに浜辺に打ち寄せる波の描いたような美しい曲。Aの旋律は途中でト短調になる所がまた甘い響きだ。Bは変ホ短調。終盤A'〜コーダの部分は、旋律に半音階的対旋律が纏わりつく所は(アルベニスのピアノ曲を思わせるが)幻想的な絶妙な響きだ。- Paz de ocaso (En el río Damují) 日暮れの安らぎ(ダムヒ川にて)
変イ長調、A-B-A'-B'-A-B"形式。副題の「ダムヒ川」はキューバ中部の町シエンフエゴス近郊の川で、静かな夕暮れの光と空気を描いたような、幻想的な美しさを湛えた見事な曲。Aでは静かな低音の上で、一瞬夕暮れの光が煌めくような高音が鳴る。Bではゆったりとした踊りが幻のように現れる雰囲気。1916
- Momento doloroso 悲しい時
初版は、1920年に『メキシコ音楽雑誌 Revista Musical de México』にNoé Mac Púlmenというペンネームで掲載された。ニ短調、A-A'形式。オペラの悲劇の一場面を切り取ってきたような曲。- Dos danzas 2つの舞曲
- Mexicana, Danza romántica メキシコ風、ロマンティックな舞曲
A-B-A-B形式。Aはホ短調で3連符混じりのメランコリックな旋律で始まるが、Bが同主調のホ長調に転調するところが、南国的雰囲気でいい。- Cubana, Danza de salón キューバ風、サロン風舞曲
A-B形式。軽快なシンコペーションのダンソンのリズムがずっと続く曲。この曲もニ短調に始まり、Bでニ長調に転調する。- Guateque, Tempo di danzon グァテケ、ダンソンのテンポで
グアテケとはキューバの農村での祭りの踊りの一つらしく、起源はアフリカとのこと。2拍子の素朴な踊りを思わせる楽しい曲。イ長調、A-B-A'-C-C-A'形式。Aはキューバのコントラダンサのリズムの一つであるシンキージョのリズムが重音の旋律にしばしば現れる。Bはイ短調になり、内声の伴奏にまたシンキージョが現れる。Cはヘ長調になる。- Habana (Evocaciones), Allegro moderato ハバナ(想起)、アレグロ・モデラート
ポンセの自筆譜のみが残る曲。ホ長調。左手に現れるシンコペーションのモチーフは右手和音に引き継がれ発展していく。2分程の短い曲だが転調が多く、最後は変ニ長調のトレモロで終わる。- Preludio cubano キューバ前奏曲
シンキージョのリズムがずっと続く。嬰ヘ短調から嬰ヘ長調へと転調する。1915年作曲のキューバ狂詩曲第1番の「前奏曲」に相応しい感じである。- Sonata No. 2 ソナタ第2番
ポンセはピアノソナタを2曲作った。第1番(1912年作曲)は楽譜は現存していないため、現在聴くことのできるのは第2番のみである。このソナタ第2番は2楽章から成り、第1楽章はメキシコ民謡《大きなソンブレロ El sombrero ancho》が第1主題として嬰ハ短調で現れ、15小節から成る静かな3拍子のホ長調の(おそらくポンセのオリジナルの旋律の)第2主題→ホ長調の第1主題(ここまでで楽譜では最初から繰り返し)→第1主題の展開→16小節から成るゆったりとしたハバネラの嬰ヘ長調の第3主題→第1主題を用いた展開部と続き、再現部は嬰ハ短調の第1主題→15小節の嬰ハ長調の第2主題→嬰ハ長調の第1主題→13小節の嬰ハ長調の第3主題で終わる。以上のようにソナタ形式を取ってはいるが、繰り返しを省いて演奏しても全476小節中、第1主題およびその展開が417小節と、殆どが《大きなソンブレロ》の主題が右手に左手にと現れる曲。第2楽章は三部形式。民謡の《突け、インコ Pica perico》が用いられている。中間部のトリオは印象派風でダル・セーニョして《突け、インコ》が繰り返されて終わる。このトリオの書法や単純にダル・セーニョして再現部に何も変化のないところなど、第2楽章はちょっと急いで仕上げちゃったかな?てな感じ。ソナタ全体としても第3楽章以降が欲しい感じの曲である。
- Allegro
- Allegro. Scherzo
- Rapsodia cubana no. 3 キューバ狂詩曲第3番
この曲はポンセ自身により、1916年11月にハバナで、また同年12月に一時帰国したメキシコシティで演奏したとする記録があるが、楽譜は現存せずどんな曲かは不明である。1916年11月12日にハバナのアテネオ劇場で行われたポンセのリサイタルについて、ハバナの "La Semana" 誌は「彼のキューバ狂詩曲(第3番)は、喝采と、祝福と、ブラボー!に包まれた」と記しており、また1916年12月20日にメキシコシティのアブレウ劇場でのリサイタルについて、"El Gladiador" 誌は「キューバ狂詩曲第3番において、ポンセはピアノに奇跡を起こした」と評している。これだけ絶賛された作品なのに現存していないのがとても残念‥‥。- Rapsodia yucateca ユカテカ狂詩曲
ユカテカとはメキシコ南東部のユカタン半島一帯を指す。ユカタン半島南部は特に熱帯林が繁茂する地域で、マヤ族の居住地である。この曲はメキシコ狂詩曲第3番として作曲されたらしいが、楽譜が現存せずどんな曲か不明である(楽譜出版社Wagner y Levienのカタログにも載っているが、実際出版されたのかは不明)。知りたいな~。1917
- Mazurka no. 18 (27) en mi menor マズルカ第18 (27) 番ホ短調
この曲の自筆譜には「ハバナ、1917年2月21日」とあり、1919年にPeña Gil社からマズルカ27番として出版されたが、後の1938年にポンセ自身によりマズルカ第1番から19番までが書き改められた際に、第18番として入れられた。Aの部分は、半音階を下がる旋律が悲劇的な雰囲気。Bはロ長調。Cのト長調は2声のカノンとなっている。- Valse Galante 優しいワルツ
イ長調、A-B-A-コーダの形式。サロン風ワルツの作曲でもポンセが一流の腕前に達している事を実感するような、豊潤な響きの曲である。ハープを思わせる細やかな序奏に始まり、その後は全体的に和声が分厚く演奏会向きのワルツ。Bはヘ長調になる。- Serenata arcaica (Petite serenade) 古風なセレナーデ(小さなセレナーデ)
イ短調、A-B-A'形式。3拍子でバロック風だが、何となく漂う雰囲気がポンセっぽい曲。Bはハ長調になる。1917年頃
- Mazurka no. 19 en do sostenido menor マズルカ第19番嬰ハ短調
A-B-B-A-B形式。Aの部分のモチーフはマズルカ第18番のCの部分に似ているが、短調でテンポにのって、アッチェレランドもかかって、ちょっと野性的。Bは変ニ長調となり、ポンセらしいロマンティックな旋律が盛り上がる。- Mazurka no. 20 (23) en la menor マズルカ第20 (23) 番イ短調
ポンセのマズルカの中でも最も技巧的で華やかな曲。Aの部分は、6連16分音符が雷のように音階をくねりながら下降してはアルペジオを駆け上り、続いて左手で16分音符が滝を落ちるように響く。Bは一転して、エストレリータを思わせるような甘いヘ長調の旋律が歌われる。Cはイ長調で、マズルカ第5番のやはりCの部分を変奏したように似ている。この曲は1919年頃にPeña Gil社からマズルカ23番として出版されたが、2002年にメキシコ国立自治大学 - 国立音楽学校から刊行されたマズルカ全集では(今まで欠番であった)20番とされた。ちなみにこの曲が当初マズルカ23番として出版されたり、1917年作曲のマズルカ第18番が当初マズルカ27番として出版されたということは、ポンセはマズルカを最低でも27番まで作曲したのだろうか?。1998年にポンセの弟子のカルロス・バスケスがメキシコ国立自治大学に寄贈したポンセの楽譜に、今まで未発表だったマズルカが1曲あり、これは21番または22番かとされている。(この楽譜は2002年のマズルカ全集の中で「番号なし」のマズルカとして収められた。)それでもなお欠番が何曲かある。23番と27番は出版社の番号のつけ間違えという考え方もできるが、マズルカ17番が1911年の作曲、その次の第18番(初版ではマズルカ27番)が1917年と、6年もの間が空いていることを考慮すると、その間にポンセが10曲位マズルカを作ってもおかしくない、とマズルカ全集の編者のLoudres Rebollo氏は書いている。いまもどこかに、未発表のポンセのマズルカがあるのかも知れない‥‥。1919
- Scherzino maya マヤ風スケルツィーノ
マヤ地域はユカタン半島を含むメキシコ南東部を指し、かつてマヤ文明が繁栄した地である。この曲はマヤ文明時代の先住民の音楽を取り入れた訳ではなく、おそらくメキシコ南東部のソン Son(18世紀頃に始まったとされる速いテンポのメキシコの舞踊音楽の一つ)のリズムであろう。ニ長調、A-B形式。跳ねるような軽快な僅か1分程度の短い曲。1920
- Gavotte et Musette ガヴォットとミュゼット
ロ短調、A-B-A'-C-A"-B形式。ポンセはガボットを作曲するのが得意!。Bの部分は特にいい雰囲気。Cの短いミュゼットはロ長調で、鳥がさえずるような響きのトリルを多用。なお、Cの9小節目で低音シ-ファ♯全音符の下に「Ped. III sonoro」の表示と、13小節目の同様の所に「*Ped.III」の表示があり、いずれもソステヌートペダル使用の指示と思われる。1921
- Evocaciones 想起
ポンセはこの組曲《Evocaciones》を計8曲作ったとする文献があり、〈ライン川の夜明け El alba sobre el Rhin〉や〈ウィーン Viena〉という曲もあったらしいが、上記の4曲以外の楽譜は現存しない。
- La Alhambra アルハンブラ
A-B-A'-B'-A"形式。曲名どおりのスペインとアラビアが混在したような曲。ミの旋法によるカンテ・ホンドを思わせる息の長い旋律や、ギターのラスゲアード奏法を模した伴奏が特徴的。 Bは終止音がレ♯のミの旋法に転調し、3連符の「こぶし」混じりの情熱的な旋律が歌われる。- Venecia ベネチア
ホ長調、A-B-C-A'-B'形式。6/8拍子の舟歌。増三和音や全音音階の多用などはドビュッシーを思わせる印象主義風で、「水の都」を描写するに相応しい音使いの曲。Cはロ長調になる。- Versailles ベルサイユ
ホ短調、A-A'-B-A'-C-D-A-A'-B-A'形式。楽譜の冒頭に「パヴァーヌ風に Alla maneira d'una Pavana」と記されている通りの優雅な曲。1901年作曲のガボットに似た、ポンセらしい、いい雰囲気の曲。Cはホ長調、Dはホ短調に戻り重々しい。- Broadway ブロードウェイ
題名通りのアメリカ風の曲。A-A'-B-A"-C形式。Aは嬰ハ短調で、ちょっと重々しいケークウォークが滑稽に奏される。Bで突然(和声的に離れた)ヘ長調に転調する所は面白い。Cはフォックストロットのリズムでホ長調。これも戯けた雰囲気の曲。- Intermezzo no. 3 (Alma triste) 間奏曲第3番(悲しい心)
この曲は1921年、メキシコの雑誌『Arte y Labor』に《Alma triste》の題名で出版されたが、後の1943年に『Boletín del Seminario de Cultura Mexicana』という雑誌に《Intermezzo no. 3》の題名で再び出版された。A-B-A'-コーダの形式からなり、Aは一応変ロ短調で霧のかかったような印象派風、Bはロ長調でやや甘い響き。今迄のポンセの曲とは随分異なっていて、1925年よりのパリ留学による作風の変化を予言するような作品だ。1920年代前半
1927
- Preludios encadenados 繋がれた前奏曲集
演奏時間6分ほどの曲だが、4つの部分が繋がって現れる。第1部Andantino espressivoは厳粛な感じの4声のフーガ風。第2部Agitatoは付点8分音符+16分音符の執拗な繰り返し。第3部Andanteは少し静かになる。第4部Allegro, ma non troppoはミのフリギア旋法で、原始的な踊りを連想させる響きだ(これはメキシコ先住民の音楽を元にしていると述べている研究者もいる)。神秘和音に近い響きやリズムのしつこい反復など、全体的にスクリャービンの後期ソナタを思わせるような曲で正直言って難解だが、楽譜を見るとポンセがこの曲に力を入れたことが窺える。1928
- Lent レント
メキシコの音楽学者リカルド・ミランダが1992年に、フランスの作曲家のナディア・ブーランジェ (1887-1979) の遺品から「ナディア・ブーランジェ様へ、デュカス先生のクラスの生徒より …(中略)… パリ、1928年5月 A Mademoiselle Nadia Boulanger, les élèves de la classe du Maître Dukas …(中略)… Paris, mai 1928.」と記された楽譜集を発見した。ナディア・ブーランジェに寄せてポール・デュカスの門下生の各々が作曲した小品を収めたこの楽譜集には、ホアキン・ロドリーゴやホセ・ロロンらの小品の手稿譜があり、その中にポンセのこの作品がある。楽譜には正式な曲名は記されておらず、速度記号の "Lent" が記されているだけである。ちなみにポンセはパリ留学中に、一時的ながらフランスの作曲家のナディア・ブーランジェに師事したことがある。わずか17小節の曲で、強いて言えば嬰ニ短調、A-B-A'-B'形式。概ね三声のポリフォニーで書かれていて、謎めいた響きの静かな小品。- Preludio "Moderato malinconico" 前奏曲、モデラート・マリンコーニコ
「マリンコーニコ」とは音楽用語で「陰うつな」という意味。ポンセの自筆譜には曲名はなく、"Moderato malinconico" とだけ記されており、後にポンセの弟子のカルロス・バスケスが《Preludio》と曲名を付けた。ト短調、前奏-A-A-後奏の形式。前奏の右手はレ, ラ, ミの音を行き来していて、ギターの調弦を思わせる。楽譜は6/8 (2/4) 拍子と記されており、6/8拍子の静かな旋律に、2/4拍子の対旋律がヘミオラで絡む。対旋律の半音階進行のため、霧のかかったような雰囲気の曲。1929
- Quatre pièces pour piano (Suite bitonal) ピアノのための4つの小品集(複調の組曲)
留学中のパリで出版。Suite bitonalの副題は、右手と左手で異なる調を弾いていることより付けられた。多調のピアノ曲と言えばダリウス・ミヨーのピアノ曲集《ブラジルの郷愁 Saudades do Brasil》が有名だが、ポンセのこの作品も短二度の隣接した調をぶつけながら、音の使い方により鋭い響きと甘美な響きを導いている。作曲技法が高度なことは分かるが全体的に難解で、楽譜を見て初めて納得~といった感じである。
- Preludio scherzoso スケルツィオ風前奏曲
A-B-C-A'形式。楽譜では左手音部のみに調号が記されていて、右手がハ長調、左手が変ニ長調。軽快な曲で、冒頭の左手旋律がペンタトニックなのが凝っている。Bではイラディエール作曲の《ラ・パロマ》の旋律が断片的に現れ、Cではヴィラ=ロボスを思わせる両手交互の連打が現れたりとパロディーめいているかな。(ポンセのパリ留学中のポール・デュカスのクラスにはヴィラ=ロボスも出入りしていた。)また、両手交互連打の中から断片的に奏されるモチーフは、メキシコのクリスマス行事である「ポサダ」で歌われる旋律であろうとする文献もある。- Arietta アリエッタ
A-B-A'-コーダの形式。右手がハ長調、左手がロ長調。左手に柔らかな旋律が現れ、右手に2声の対旋律が奏され、音の響きは霧の中のような謎めいた雰囲気。コーダは両手交互和音連打がアッチェレランドして終わる。- Sarabande サラバンド
A-B-A'-B'形式。調号からは右手がロ長調(又は嬰ト短調)の五音音階、左手はハ長調と言うよりはシのヒポフリギア旋法で、ポリトーナルというよりポリモードと言える複雑な作りで、グレゴリオ聖歌を思わせる荘厳な雰囲気。- Gigue ジーグ
A-B-A-B-A'-B'形式。右手がハ長調、左手が変ト長調の五音音階。6/8拍子と2/4拍子の複合リズムで、ポリトーナル+ポリリズムの曲。快活な踊りのような雰囲気で、pまたはppとfが頻繁に変わるのはバロック音楽らしい響きだ。音も華やかでグリッサンドも現れ、面白い。1930
- Deux etudes pour piano ピアノのための2つの練習曲集
かの有名なピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインに献呈された曲だが、ルービンシュタイン本人がこの曲を弾いたのかは不明である。この練習曲もちょっと難解。
- Allegro mosso ma espressivo
A-B-A'形式。4度~6度の重音の練習曲で、ゆったりとしたシンコペーションのリズムの重音にのって、息の長い旋律が現れる。一応イ短調だが、ファとソが♯なのが印象主義風というか、神秘的な響きだ- Allegro non troppo
2度~4度の重音が16分音符で奏される。一応ニ長調の快活な曲。1931
- Prélude et fugue pour la main gauche seule (Preludio y fuga para la mano izquierda sola) 左手のための前奏曲とフーガ
イ短調。前奏曲の部分はギターのアレペジオを思わせる。後半の3声のフーガは左手だけとは言え徐々に盛り上がっていく。ポンセの自筆譜は前奏曲の最後が未完で、弟子のカルロス・バスケスが最後の16小節を仕上げた。1932
- Sonatine ソナチネ
ポンセのパリ留学中の最後の作品で、彼のピアノ曲の中で最も前衛的な作品。第1楽章Allegretto sempliceはソナタ形式。強いて言えばホ短調だが調性ははっきりせず、ちょっと新古典主義風な響きだ。最初に3/8拍子と2/8拍子が入り混じった会話のような第一主題が現れる。続いて3連符のパッセージの中から第二主題が奏される。展開部は主に第一主題が形を変え奏され、最後は第一、第二主題が音色を増して奏される。第2楽章は一応変ニ長調、三部形式。題名通りの静かな曲で、神秘的な響き。第3楽章Allegroは1927年作曲の《Preludio encadenados》の第4部を少し改変したもの。
- Allegretto semplice
- Andante, Alla maniera d'un notturno
- Allegro
1933
- Intermezzo no. 2 間奏曲第2番
A-B-A'-コーダの形式。1912年作曲の《間奏曲第1番》とは全然違った趣の神秘的な曲。レ♯のフリギア旋法を用いていて、低音と高音の響きが荘厳だ。中間部Bは5/8拍子になり、静かに同じ音型が続く。- Prélude fugué フーガ風前奏曲
フーガは2声→3声→4声と拡大していく曲。一応ニ短調だが、調性は不安定で転調が多い。フーガという古典的な技法を用いながらも和声の面では新しい。1934
1935
1937年頃
- Mañanitas de los niños 子どもたちのマニャニータス
イ長調。メキシコでは誕生日などで歌われる民謡《ラス・ マニャニータス Las mañanitas》の編曲らしい。楽しく、わくわくするような1分少々の小品。- Mazurka マズルカ
原曲はパリ留学中の1933年に作曲され、ギタリストのセゴビアに献呈された《ギターのための4つの小品 Cuatro piezas para guitarra》の第1曲〈マズルカ Mazurka〉で、ポンセ自身によるこのピアノ編曲は1937年に出版された。A-B-A-コーダの形式。リズムはマズルカだが、ミの旋法で書かれた旋律や和音の雰囲気はアンダルシア風またはジプシー風である。また途中で聴かれる半音階的和音進行は印象主義の影響を感じさせる。独特の節回しや和音、リズムなどどれをとっても、やはりこの曲はギターで弾いた方がピッタリくるように思えます。- Preludio en Do mayor 前奏曲ハ長調
ポンセは国立芸術院から「幼稚園監察官」に任命された頃の作品。「歌と遊びのコレクション」という楽譜集の中に収められた曲とのこと。この楽譜集には1901年作曲の有名な《ガボット》も原曲より半音下げられてハ長調で収められている。曲は何かわくわくすることが始まるような感じ。三部形式で、中間部の不安定な和音進行は期待と不安を表しているよう。1939
- Idilio mexicano, para dos pianos 2台のピアノのためのメキシコの牧歌
ポンセのピアノ曲の中で唯一、2台ピアノのために作られた曲。イタリアのデュオピアニストのIsabel y Silvia Scionti夫妻が1939年にメキシコを訪問していて、ポンセは彼等にこの曲を献呈した。彼等は同年11月にニューヨークのカーネギーホールで催された演奏会でこの曲を演奏した。曲は2台ピアノでよくある力強いイメージとは正反対の繊細な曲。楽譜の冒頭にAllegretto Placidamenteと記される通りに、ハープを思わせる6/8拍子の柔らかいアルペジオにのって子守歌のような素朴な旋律がpで奏される。和声や大胆な転調など、ポンセの晩年の高度な作曲技法を反映した響きが聴かれる。第1ピアノがアルペジオや旋律をペダルを使って響かせる一方、第2ピアノはノンペダルで太鼓の音のようなパッセージをppで奏する所など、2台ピアノでしかできない絶妙な効果を出している(下記の楽譜)。曲は伴奏に16分音符のトレモロや音階が加わりながら段々複雑になっていき、3連32分音符が持続的に奏される所など、星空が瞬くような美しさ。クライマックスの部分の音量もfまでで全体的に静かに奏され、最後はpppで終わる。
Idilio mexicano, para dos pianos、60-63小節、Ediciones Clema M. de Ponceより引用- Veinte piezas fáciles 20のやさしい小品集
1937年、すでにメキシコを代表する音楽家となったポンセは国立芸術院からなぜだか「幼稚園監察官」に任命された。しかしこの経験により、彼は今まで殆ど作曲したことのなかった「子ども向けのピアノ曲」の分野で素晴らしい曲集を作ることになり、それがこの《20のやさしい小品集》である。曲によりそれぞれやや難易度は異なるが、だいたいの曲はピアノを習い始めて2~3年目の初心者向きで、子供の小さな手を考慮して第17曲まではオクターブは現れない。この曲集の素晴らしいところは殆どの曲がメキシコ民謡などの民族音楽を元に作られていることで、特に注目される点は、第1曲から第6曲まではメキシコ先住民族の音楽を元にしていて五音音階の曲が多いことである。全体的にメキシコ民族音楽の歴史を俯瞰するようなラインナップで、また曲の由来を辿ることは即ちメキシコの歴史を辿ることになる。メキシコの子どもたちのための 優れたピアノ教則本であり、かつ民族音楽の教材であり、かつ歴史学習の教材であると言えよう。
- Canción de los tamales (Huicholes) タマーレスの歌(ウイチョル族)
第1曲〈タマーレスの歌〉、第4曲〈雨乞いの踊り〉、第5曲〈雨乞いの歌〉はメキシコ中西部ナヤリット州とハリスコ州に住むウイチョル族の歌や踊りである。ド, ミ, ソ, ラから成る旋律が、右手→左手→両手オクターブユニゾンで繰り返される。- Danza yaqui ヤキの踊り
この曲は北西部ソノラ州のヤキ族の踊り。五音音階の右手旋律が2回奏されるが、1回目の伴奏は完全五度、2回目は三度重音になる。- Los xtoles (Canto Maya) チトーレス(マヤの歌)
この曲はユカタン半島などに住むマヤ系民族の戦士が太陽に捧げる歌。五音音階の旋律は連打音混じりで威勢が良い。- Danza de la lluvia (Huicholes) 雨乞いの踊り(ウイチョル族)
ド, レ, ミ, ソ, ラ, シのヘキサトニックの旋律が繰り返される。- Canción de la lluvia (Huicholes) 雨乞いの歌(ウイチョル族)
6/8拍子と4/4拍子が入れ替わるリズムで、旋律はラ, ド, ファのみから成る。- Danza de los tecuanes テクアネスの踊り
「テクアネス」とはナワトル語(メキシコの先住民語の一つ)で「ジャガー」を意味する。メキシコなどメソアメリカの多くの先住民族にとって強く攻撃的な捕食動物であるジャガーは畏敬の対象とされ、神話にも登場していて、メキシコ中部〜南部ではジャガーに扮した人が踊る舞踊がある。曲は太鼓を思わせるレの8分音符連打にのって、ファ, ソ, ラ, シ♭, ドから成る軽快な旋律が奏される。- Canción campesina (Mestiza) 農民の歌(メスティーソ)
第7曲以降はスペイン人のメキシコ征服以後、国民の多くが先住民とヨーロッパ移民との混血(メスティーソ)となってからの、いわゆる流行歌を元にした曲が多い。ト長調。穏やかな旋律が4回繰り返されるが、2回目はポリフォニックな変奏、3回目はト短調に変奏される。- Cielito lindo シエリト・リンド
メキシコの歌《シエリト・リンド》は、ポンセは1913年にも《メキシコの前奏曲(シエリト・リンド)》の題名でピアノ編曲を作っているが、この曲集ではハ長調、主旋律と対旋律の二声のみの易しい編曲となっている。旋律は2回繰り返され、2回目は主旋律と対旋律が低音・高音で逆転して奏される。- Las mañanitas ラス・ マニャニータス
《ラス・ マニャニータス》はメキシコで誕生日の歌として有名である。ハ長調。この曲も前曲と同様に主旋律と対旋律の二声から成り、旋律は2回繰り返され、2回目は主旋律と対旋律が低音・高音で逆転して奏される。- Yo no sé que decir (Danza popular 1880) 何て言ったらいいか分からない(1880年の民族舞踊)
前半はニ短調の付点混じりの旋律が奏され、後半はニ長調になる。- La pasadita (Canción Mexicana 1846) パサディータ(1846年のメキシコの歌)
1846年〜1848年の米墨戦争(メキシコと米国の戦争)中に流行したメキシコの歌で、戦争を皮肉る歌詞である。ト長調。三声で書かれている。- La Sandunga (Melodia de Tehuantepec) サンドゥンガ(テワンテペクの旋律)
《サンドゥンガ》はオアハカ州東部のテワンテペク地方の民謡で、元は、母親の死に目に会えなかった息子の嘆き歌だったようだが、現在は様々な歌詞で歌われていて有名な曲。ニ短調。旋律の大部分は三度または六度の重音で奏される。- Ven, ¡Oh Luna! (Canción del Bajío) 出てきて、月よ!(バヒオの民謡)
「バヒオ」は「盆地」の意味で、メキシコでは中部の高原地帯の盆地を指す。ト長調。右手旋律の下に添えられた、控え目の伴奏や対旋律がお洒落である。- Homenaje a Villanueva (Sobre su 3a Mazurka) ビジャヌエバを讃えて(彼のマズルカ第3番による)
メキシコの先輩作曲家フェリぺ・ビジャヌエバの《マズルカ第3番》を編曲している。ビジャヌエバの原曲は変ニ長調だが、ここではハ長調に編曲され、概ね主旋律と対旋律の二声で書かれている。- Arrullo popular 子守歌
ハ長調。子守歌らしい穏やかな旋律が奏される。- La posada ポサーダ
メキシコではクリスマスのお祝いは12月16日から24日まで9日間続き、この行事をポサーダ(ポサダ)と呼んでいる。この曲の旋律はポサーダでよく歌われるもの。ハ長調。旋律の下では合いの手のような対旋律が奏される。- La revolución 革命
この曲は四部から成っている。始めはハ長調で軍隊ラッパを思わせる勇ましい旋律が現れる。次に現れるのは1910年から1917年のメキシコ革命時代の愛唱歌《バレンティーナ Valentina》で、ポンセは1914年にも同曲をピアノ独奏に編曲して(ピアノ独奏の楽譜の脚注に歌詞が記され)出版されているが、ここではハ長調で、概ね主旋律と対旋律の二声で書かれている。3番目は、同じくメキシコ革命時代に流行した愛唱歌《アデリータ》がへ長調で奏される(バレンティーナ同様、アデリータもメキシコ革命時代の伝説的な女性兵士の名前で、そのモデルとして、従軍したチワワ州出身の女性アデラ・ベラルデ・ペレス Adela Velarde Pérez がいたが、《アデリータ》の歌詞の内容は実在の彼女とは関係ない架空の話である)。曲は最後に冒頭の軍隊ラッパのような旋律が繰り返されて終わる。- La cucaracha (Canto popular) ラ・クカラーチャ(有名な歌)
ラ・クカラーチャはゴキブリという意味。有名なこの曲は元はスペインの歌であったが、メキシコでは時代によりいろいろな歌詞が付いて歌われてきた。中でも有名なのがメキシコ革命時代に流行した歌詞で、歌詞には山賊出身で革命家となったパンチョ・ビジャや当時の大統領カランサが出てくる。ポンセのこの編曲版はハ長調、A-B-A'形式。Aでは旋律が左手→右手と受け継がれ、Bでは一部カノン風で、それも右手が先行したり左手が先行したりと凝っている。- Primavera (Original) 春(オリジナル)
この曲集唯一のポンセのオリジナルの曲。へ長調、A-A'形式。半音階の倚音を多用した旋律はポンセらしい甘い響きである。- La Patria 祖国
メキシコ国歌の編曲で、旋律は現在歌われているものとは若干異なる。ハ長調、A-B-A形式。1940または1943?
- "Estrellita" Metamorfosis de concierto エストレリータ「演奏会用メタフォルモーシス」
既にこの頃世界的に有名になりポンセの名刺代わりとなっていた歌曲《エストレリータ》をピアノ独奏用に自ら編曲したもの(1920年頃に編曲したとする文献もある)。変ト長調。旋律は繊細な和音の中に包み込まれており、上手に弾いても旋律を浮き立たせるのは難しそう。中間部はアラベスク風の伴奏の和音がちょっと暗いかな。コーダは高音部が鳥のさえずりのよう。全体的に凝り過ぎた編曲で、オリジナルの旋律の美しさがやや消えてしまっているような気がします。1941
- Cuatro danzas mexicanas 4つのメキシコ舞曲集
フランス留学後のポンセの後期ピアノ曲の代表作。ギタリストのアンドレス・セゴビアの妻、Paquita de Segoviaに献呈された。4曲共、前半のトッカータ風の速い部分と後半のハバネラ風のゆったりした部分の2部から成り、4曲通しても僅か6分ほどの曲。印象派の和声に加え、新古典主義やプロコフィエフの影響も感じられ、それにメキシコ風というよりかはキューバのハバネラ風のリズムとポンセ独特の甘い和声が混ざっていて、ポンセの今まで培ってきた作曲技法がこの曲集に集大成されている。スペインのアルベニスが晩年にピアノのための大曲《イベリア》を作ったように、ポンセが彼の到達した技法を用いてメキシコ民族主義を代表するようなピアノのための大曲を更に作ってくれていたら、と惜しまれるが‥‥。第1曲はニ長調。第2曲はニ短調〜ヘ長調。第3曲は変ホ短調〜変ホ長調。第4曲は嬰ヘ短調〜嬰ヘ長調。この組曲の第1番、2番は、1947年作曲の管弦楽組曲《メキシコのスナップショット Instantáneas mexicanas》の第5曲、6曲にそれぞれ編曲された。
- Vivo - Meno mosso, espressivo
- Vivo - Piú lento
- Vivo - Meno mosso
- Vivo - Poco meno
1948
- Serenata romántica ロマンティックなセレナーデ
ポンセ最晩年の作。ト長調、A-B-A'形式。左手伴奏の中から内声が浮かび、高音部オクターブに息の長い旋律が奏される。Bは6/8拍子でややテンポを速め、跳ねるよう。後期の彼の複雑な作風とは異なり、若い頃を思わせるト長調のロマンティックな曲だ。死の真際に昔を回想して作ったのだろうか?。作曲年不詳
- Primara gavota, piano a cuatro manos ピアノ連弾のためのガボット第1番
ポンセのピアノ曲で唯一のピアノ連弾曲で、兄のJosé Braulioとの共作と楽譜には記されている。イ長調、A-A-B-A-C-D-C'-A。上品で落ち着いた雰囲気のガボットだ。プリモが両手ユニゾンで主旋律を奏で、セコンドは右手で対旋律、左手で伴奏リズムを奏でる。Bはホ長調、Cはニ長調、Dはト長調に転調するのも楽しい。